だっサイくん

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<シングルちゃんとダブルちゃん>

短編小説 1話 ⭐️ウォータークローゼットタウン

ここはトイレの仲間たちが暮らしている不思議な街、ウォータークローゼットタウン。

住人たちが暮らすトイレビレッジには、シングルちゃんとダブルちゃんというトイレットペーパーの男の子と女の子がいます。

シングルちゃんはシングルトイレットペーパーの男の子で、しっかり者。

ダブルちゃんはダブルトイレットペーパーの女の子で、ちょっぴりおっちょこちょい。よくつまずいて転んだり、ロールを引っかけたりしてしまいます。

そんなダブルちゃんを、シングルちゃんはいつも心配そうに見守って、あれこれ世話を焼いてあげるのです。

トイレビレッジには他にも愉快な仲間が沢山住んでいますが、シングルちゃんとダブルちゃんは一番の仲良しコンビなのです。

ウォータークローゼットタウンには、トイレビレッジの他に、妖精たちが暮らすワンダーフォレストビレッジと、悪い奴らが住んでいるブラックビレッジがあります。

シングルちゃんもダブルちゃんも、小さい頃からお父さんやお母さんに「ブラックビレッジには行ってはいけないよ」と言われて育ってきました。

ブラックビレッジに行くためには、トイレビレッジとブラックビレッジの間にある川を超えなければなりません。

シングルちゃんもダブルちゃんも、水に濡れると身体が溶けてしまうので、川を渡ろうなんて気持ちにはなれませんでした。お父さんやお母さんから「ダメ」と言われると、ブラックビレッジに行ってみたいという興味が湧いてきて、いつか行ってみたいな、と思ったのですが、川のせいでふたりは一度もブラックビレッジに言った事がありませんでした。

それにシングルちゃんは綺麗好きで、冒険なんかに出かけたら身体中どろんこの傷だらけになってしまって、汚くなるのは嫌だな、と思っていたので、お父さんとお母さんの言いつけを守ってブラックビレッジに行くことはありませんでした。

ワンダーフォレストビレッジには、よく家族で出かけたシングルちゃんとダブルちゃん。

ふたりで遊びに行ったこともありました。

ここには心優しい妖精たちが沢山いて、いつも楽しいひと時を過ごせるのです。

それから、不思議なものが沢山落ちているので、それを拾って帰るのも、なんだか宝探しをしているような気分になれて、シングルちゃんもダブルちゃんも、いつもワクワクした気持ちでワンダーフォレストビレッジに遊びに行ったものでした。

「ねぇ・・・でもさ、私たちがウォータークローゼットタウンでただひとつだけ行った事がないのが、ブラックビレッジなのよ」

ある日、ダブルちゃんがこんな事を言い出しました。

ダブルちゃんは好奇心旺盛で、知らない事を知ったり、見た事がないものを見たり、食べた事がないものを食べたりするのが大好きだったのです。

「え・・・でも、ブラックビレッジには悪い奴がうじゃうじゃいるから、近づくなって言われているじゃないか。しかも、ブラックビレッジに行くためには川を超えなければならないんだよ。そんな危ない事、絶対できないって」

シングルちゃんはダブルちゃんをたしなめるように、そう言いました。

「う~ん・・・でも、気にならない?あそこに行けば、私たち、このウォータークローゼットタウンの全ての場所を見に行った事になるのよ」

ダブルちゃんはワクワクしたように目を輝かせてそう言います。

「でも・・・」

シングルちゃんがもう一度説得しようとすると

「もうっ!シングルちゃんの意気地なし!そんなに勇気が出ないなら、私ひとりだけで行っちゃうんだから!」

と怒ってひとりでずんずん歩き始めてしまいました。

そして、すぐに自分のロールのすそを踏んづけて、派手に転んでしまいました。

そんなダブルちゃんを見て、シングルちゃんは、やっぱり放っておけないな・・・と思いました。

僕がついていないと、心配だ・・・と思ったシングルちゃんは、しぶしぶダブルちゃんについていく事にしました。

ふたりは川までやってきました。

水の流れは穏やかでしたが、もしも濡れてしまったら・・・と思うと、シングルちゃんはぞっとしました。

「大丈夫?なんか顔が青ざめてるみたいだけど」

ダブルちゃんがからかうようにそう言いました。

「そりゃ、僕よりダブルちゃんの方が水には少しだけ強いから、そんな風に平気なんだよ。僕は数あるトイレットペーパーの中でも最も水に溶けやすいんだから!」

シングルちゃんは躍起になってそう返しました。

「ごめんごめん、それにしても・・・対岸側は、なんていうか、とっても嫌なかんじ・・・」

川の向こう側にはブラックビレッジが小さく微かに見えましたが、トイレビレッジとは雰囲気が全く異なり、暗く汚らしく、そしてとても嫌なかんじでした。

シングルちゃんは「やっぱり引き返そうよ」と言うために口を開きかけましたが、ダブルちゃんは川の船着き場に向かってどんどん歩いていきます。

そして、船着き場のおじさんに

「反対側までおねがいします」

と言って、さっさと船に乗り込んでしまいました。

「待ってよ」

そう言いながら慌てて船に乗り込んだシングルちゃんも一緒に、対岸へ渡ってしまいました。

もう後には引けません。

そしてふたりは、どうにか濡れる事なく対岸へ渡り、ブラックビレッジへと足を踏み入れました。

「ここがブラックビレッジ・・・」

「なんだかとても暗いね・・・それに臭いし、汚いよ・・・」

おそるおそるブラックビレッジの街を歩くシングルちゃんとダブルちゃんでしたが、突然背後から

「トイレビレッジのやつじゃねぇか!なぁにやってんだ、こんなとこで!」

と大声が聞こえてきたので、恐る恐る振り返りました。

そこにはクモとハエのギャンググループがいて、ニヤニヤ笑いながら、こちらを見ていました。

「このブラックビレッジにお前らみてぇな奴らが来る理由なんて無いはずだぜ?一体何しに来たってんだ?」

クモのリーダーのような奴が挑発的にそう言ってきました。

シングルちゃんはとっさにダブルちゃんを守るように前に乗り出して

「い・・・いや・・・僕たちは、その、迷子になって・・・」

と苦しい言い訳をしました。

「まいごぉ?ここに来るためには川を超えなきゃなんねぇはずだぜ?わざわざ川を渡って迷子たぁ笑わせるな!」

ハエのリーダーがそう言って、ギャングたちはゲラゲラ笑い転げました。

と、そこに、悪名高きトレコンドリアが

「何の騒ぎだ」

と通りかかったので、一瞬の隙をついて、シングルちゃんとダブルちゃんは全速力で逃げ出しました。

トレコンドリアは疫病をまき散らす厄介者だから絶対に近づくなと言われていた事を思い出したのです。

急いで船着き場まで戻ってトイレビレッジに帰ろうと思ったのに、なんとおじさんがどこかへ行ってしまったようで、姿が見えません。

後ろからはギャングたちとトレコンドリアが追いかけてきます。

シングルちゃんはしばらく考えて、

「仕方ない、苦肉の策だ!」

と、自分のロールを渾身の力でほどいて対岸まで投げて、ダブルちゃんに向かって

「つかまって!」

と叫び、自分の手をつかませて、着地したロール側に思い切り身体をねじりました。

すると、シングルちゃんの身体はくるくる回転しながら宙を舞い、みごと対岸までジャンプする事ができたのです。

ダブルちゃんも無事でした。

川の向こう側ではギャングとトレコンドリアが悔し気にこちらを見ていました。

「あの・・・ありがとう」

ダブルちゃんがシングルちゃんにお礼を言いました。

「それから、ごめんなさい・・・私がブラックビレッジに行きたいなんて言ったから・・・」

ダブルちゃんは心から反省しているようでした。

「もういいよ。僕も初めての経験が色々できたし。君のおかげだよ、ダブルちゃん」

シングルちゃんはダブルちゃんに優しく答えました。

 

 

 

シングルちゃんとダブルちゃん

短編小説 2話

⭐️<トレキングの逆襲>

ここはトイレビレッジ。

トイレの仲間たちが平和に暮らす静かな村です。

トイレビレッジを治めているのはカミサマというティッシュペーパーで、トイレットペーパーたちは皆カミサマに憧れています。

カミサマはとても正義感が強く、いつも正しい事を選び、誰に対しても公平で、トイレビレッジの住人たちの事をよく考えてくれているので、村民たちから慕われています。

カミサマがトイレットビレッジを治める前には、トレキングという独裁者がトイレビレッジを支配していたのですが、このトレキングは最悪な支配者で、トイレビレッジの村民たちを働かせて、自分は贅沢三昧だったのです。

だから、みんなトレキングの支配が嫌になり、投票によってカミサマをトイレビレッジの長と取り決めて、トレキングを追い出しました。

トレキングは今は村から川を渡った先にあるブラックビレッジというところに追いやられている、という話は誰もが知っている有名な話でした。

トイレビレッジの住人、トイレットペーパーのシングルちゃんとダブルちゃんは、よく一緒に遊ぶ仲良しの友達です。

シングルちゃんはシングルロールトイレットペーパーの男の子でしっかりもの、ダブルちゃんはダブルロールトイレットペーパーの女の子でちょっとおっちょこちょいです。

今日も自分のロールに足を引っかけて転びそうになったところを、シングルちゃんに助けてもらいました。

「も~、ダブルちゃんは、ちょっと風が強いだけでいつも転ぶんだから。もっと気を付けて歩くんだよ」

シングルちゃんは呆れたようにそう言いながらも、ダブルちゃんの手をしっかりと握って転ばないように気を付けて歩かせていました。

「えへへ」

ダブルちゃんは照れ笑いをしています。

そんな平和な光景が広がっていましたが、そんなふたりの耳に、よからぬウワサが飛び込んできました。

村の住人であるよこちーとたてちーがヒソヒソと立ち話をしているのを聞いてしまったのです。

「だから、本当なんだってば!今度こそトレキングがカミサマを倒してトイレビレッジの支配者として返り咲くって言ってたちーちー」

たてちーがよこちーにそう言っていましたが、よこちーは

「ゴロゴロ、信用ならないなぁ・・・だってたてちーはいっつもトレキングに騙されてるじゃないか。今回も、トレキングの嘘なんじゃないのちー?」

とまともに取り合っていない様子でした。

しかしたてちーは必死に

「クルクル!!本当だってば!!今にブラックビレッジから大勢の敵を送り込んでくるんだちーちー!大変だちー!」

と訴えています。

「ねぇ、たてちー、よこちー、今の話って・・・」

シングルちゃんがそう話しかけました。

たてちーはトレキングがカミサマの命を狙っていると主張し、よこちーはそんなのはデタラメだと言い、混乱してしまいそうになったシングルちゃんとダブルちゃんでしたが、カミサマに知らせて、一応身の安全は確保しておいた方が良さそうだという事で決まりました。

カミサマのもとへ出向いたシングルちゃんとダブルちゃんを、カミサマは手厚くもてなしました。

カミサマの考えでは、トイレビレッジの住人たちの意見に耳を傾けるのはとても大切な事なので、自分のもとを訪れた住人たちは追い返さずに必ずその言葉を聞いて受け入れるのが大事ということだったので、カミサマはふたりの話を真剣に聞いてくれました。

「ふぅむ・・・たてちーとよこちーがそんな事を・・・どう思う?トイレン教授」

カミサマは近くにいたトイレン教授に意見を求めました。

「わたくしの考えでは、そうですね・・・犯人はお前だ!!」

トイレン教授は少し考え込んで、そしてすぐに指をさしました。

「またトイレン教授は、そうやってすぐに犯人捜しをするんだから・・・」

カミサマがため息交じりにトイレン教授が指さした窓の方を見ると、なんと確かに窓の外に誰かいるではありませんか。

「何者!?」

「ふっ!バレちまったら仕方ねぇや」

トイレン教授に指さされたのは、ヒアリでした。

「カミサマをずたずたにしてこいってトレキング様に言われたのに、すんでのところでバレちまった・・・こうなったら正面から突撃してやる!!」

そう言うと、ヒアリはものすごいスピードでカミサマに襲い掛かりました。

シングルちゃんとダブルちゃんは、慌ててカミサマを守るためにロールを繰り出してヒアリをぐるぐる巻きにし、そして締め付けました。

「ぐぐぐ・・・ダメだ・・・降参だ・・・」

ヒアリはそう言うと、ぐったりとした様子で逃げ帰っていきました。

「どうやら、たてちーとよこちーのウワサは本当のようだったな。ふたりとも、ありがとう。一命を取り留めたよ。しかし、このカミサマ、カミに誓ってこのトイレビレッジを守りぬく!」

「僕たちもカミサマをお守りします!」

「私も!!」

シングルちゃんとダブルちゃんはカミサマにそう言って、トイレン教授と作戦会議を始めました。

「ここを攻めてくる敵は、シングルちゃんとダブルちゃんのロールで締め上げるのが良いだろうな。問題はバイキンガールやトレコンドリアといった菌の類だ・・・何か菌に対抗できるものがあれば良いんだが・・・」

トイレン教授は考えこみました。

「それなら、はんどらぼんに応援をお願いしようか。全てのものを吹き飛ばしてくれるパワーがあるから」

シングルちゃんが提案し、はんどらぼんのところへカミサマを守るために協力してほしいとお願いしに行きました。

はんどらぼんは、

「敵が攻めてこない間は寝ていていいなら、良いよ。敵が現れたら起こしてくれれば闘うよ」

と言ってくれたので、カミサマははんどらぼんのために豪華な寝室を貸してくれました。

それから暫くの間は、カミサマのもとへ、ブラックビレッジから刺客が送りこまれてきましたが、シングルちゃんとダブルちゃん、それからトイレン教授とはんどらぼんの反撃でカミサマを守ってきました。

自分の作戦が上手くいっていないという事に気付いたトレキングは、無理やりトイレビレッジに乗り込んできて、カミサマに直接対決を申し入れました。

カミサマは

「カミくだいて言えば、わしと直接闘いたいという事かね。カミに誓って負けるわけにはいかん!」

と立ち上がりました。

そして、トレキングとカミサマの直接対決がおこなわれる事になったのです。

力はトレキングの方が強いので、トイレビレッジの住人たちは不安げに闘いを見守っていましたが、カミサマが負けそうになるたびに

「カミサマー!がんばれー!!」

と声を張り上げて応援しました。

すると、不思議なことに、カミサマには力がみなぎり、逆にトレキングの力が弱くなっていったのです。

「ぐぬぅ・・・こんなはずでは・・・」

トレキングはとても悔しそうでしたが、カミサマの一撃がヒットし、その場に倒れました。

こうして、カミサマとトレキングの直接対決で勝利したカミサマは、トレキングにもう二度とトイレビレッジに足を踏み入れない事、トイレビレッジの治安を脅かさない事を約束させました。

かくして、トイレビレッジは再び平和を取り戻しました。

「皆が応援してくれたおかげでトレキングに打ち勝つ事ができた。それに、トレキングが送り込んでくる刺客に立ち向かってくれたシングルちゃん、ダブルちゃん、トイレン教授、はんどらぼんにも、心から感謝する。これからも、カミに誓ってこのトイレビレッジの平和を守っていこうぞ!」

カミサマは高らかにそう宣言し、村民は拍手を送りました。

 

 

 

シングルちゃんとダブルちゃん

⭐️<温故知新ってなぁに?> 3話

トイレビレッジには村の住人が愛する屋台があります。

トレチャイナという人情味溢れる主人がラーメンを出している屋台には、連日多くの村民が集まります。

トレチャイナの屋台の魅力は美味しいラーメンはもちろん、なんといってもトレチャイナの人柄で、屋台を訪れる客の多くが何かしら悩みや相談事を抱えているのですが、トレチャイナはいつも「言っチャイナ、言っチャイナ」と言い、客の悩みを聞いてくれるのです。

そして人生相談に乗って必要なアドバイスをくれるのです。

それにトレチャイナは漢方薬の知識も豊富で、心身の不調によく効く漢方薬を教えてくれるため、疲れが溜まっている村民や、原因はよく分からないけれど何か不調だという村民も、トレチャイナの屋台に集まるのです。

この日は、そんなトレチャイナの屋台にふるちぃがやってきてラーメンをすすっていました。ふるちぃはトレチャイナの屋台の常連客で、特に人生相談が無くてもラーメンをすすりに毎日のようにやって来るのです。

そしてトレチャイナと世間話を楽しんだり、軽く愚痴を吐き出したりするのでした。

ふるちぃは、いつものように口癖で「最近の若いものは・・・」と言い始めました。

若者の事をぐちぐち言うのはふるちぃの趣味のようなもので、とにかく何か文句が言えれば良いのでした。

トレチャイナはその事をよく知っているので、

「まぁまぁ」

と言いながら苦笑いしてふるちぃの話を聞き流していました。

と、そこに

「ちょっとぉ。今の、聞き捨てならないんですけどぉ」

という声とともに、とりころーるちゃんが現れました。

「も~、トレチャイナさんのラーメン食べに来たのに、気分サイアクなんですけどぉ」

とりころーるちゃんはぶすっとした顔でトレチャイナの屋台ののれんを上げて、

「なんでふるちぃは口を開けば『最近の若者は』ばっかりなのよ。まるで若者は何でもかんでも悪いみたいな言い方。気に食わないんですけど」

とりころーるちゃんは不機嫌そうにふるちぃに向かって文句を言い始めました。

ふるちぃも負けてはいません。

「なんじゃ、その態度は。これだから最近の若者はとも言いたくなるんじゃ。年上、目上の人に対する態度がなっとらん」

と、そこにトイレットペーパーのシングルちゃんとダブルちゃんが通りかかりました。

トレチャイナの屋台でラーメンを食べようと思っていたシングルちゃんとダブルちゃんでしたが、ただならぬ雰囲気を感じて心配そうにのれんを上げました。

「トレチャイナさん、こんにちは。ふるちぃととりころーるちゃんも来てたんだ。なんか・・・どうしたの・・・?」

ふるちぃはカッカして

「とりころーるがわしを邪険にしたんじゃ!」

と言い、とりころーるちゃんは

「それはふるちぃが『最近の若い者は』ってひどい事を言ったからでしょ!」

と応戦しました。

トレチャイナは

「まぁまぁ」

と困ったような顔でふたりをたしなめていました。

シングルちゃんとダブルちゃんも、困ってしまいました。

折角おいしいラーメンを楽しみにして屋台に来たのに、けんかしている中で食べてもおいしいなんて感じられそうにありません。

どうにかふたりのけんかをやめさせようと思いました。

「なんでふるちぃは『最近の若い者は』って言うの?」

シングルちゃんはそう聞いてみました。

すると、ふるちぃは

「それはな、最近の若い者は色々なってないんじゃ。言葉遣いも、目上の人への態度も、服装も、チャラチャラしてばかりでけしからん!」

と言いました。

それに反論しようととりころーるちゃんが口を開きかけましたが、トレチャイナがそれを制して少しいたずらっぽくシーっと口に人差し指を当ててウィンクしてから

「たしかに、昔と今の若者は大分変わってきましたね。ふるちぃさんはそれが気に食わないんですよね」

とふるちぃの意見に同調しました。

それから、とりころーるちゃんの方を向いて

「とりころーるちゃんは、でも、いつも礼儀正しいし、ラーメンもきれいに食べてくれるし、確かにファッションは今風だけど、しっかりしてると、僕はそう思いますよ」

と言って微笑みました。

そこでダブルちゃんが

「私もそう思うな。とりころーるちゃん、綺麗好きだし、いつも優しいし、明るいし、私、だーいすきだもん!」

と援護しました。

それを聞いて、ふるちぃは

「ぐぬぬ・・・」

と押し黙ってしまいました。

とりころーるちゃんは、トレチャイナとダブルちゃんに褒められて気をよくしたのか、少し落ち着いて

「まぁでも確かに、ふるちぃが言うのも分からなくはないんだよね。昔の若者からしたら、今の若者に違和感を覚えるのも無理ないっていうか・・・でも、今には今の生き方ってのがあるからさ、そこんとこ分かってほしいわけ」

と言いました。

そこで、今度はシングルちゃんが

「うん、確かに今の生き方に乗って生きるのも大事だよね。でも昔から今に続く良い伝統みたいなのも大事にしたいよね」

とふるちぃをフォローするように言いました。

それを受けて、トレチャイナが

「みんなは『温故知新』という言葉を知っていますか?」

と聞きました。

「温故知新??」

とりころーるちゃんと、シングルちゃん、ダブルちゃんが聞き返しました。

ふるちぃは

「なんだ、そんな事も知らんのか」

と、ふん、と鼻で笑って

「古きをたずねて新しきを知る、という事じゃよ」

と言いましたが、それでも若者たちにはピンとこないようでした。

そこでトレチャイナがすかさず説明してくれました。

「温故知新、つまり、古きをたずねて新しきを知るというのは、前に学んだ事や昔の事を調べて、新しい知識や道理を自分のものにするっていう意味なんだけど、もっと分かりやすくかみ砕くと、古いものもちゃんと知って大切にして、そして新しいものにつなげていこう、という意味になるんですよ」

シングルちゃんとダブルちゃんは

「へぇ~」

と納得しました。

とりころーるちゃんも

「たしかに、それは大事なことかもね」

と言いました。

トレチャイナはふるちぃに

「古いものを大切にするのも良いですが、新しきを知る、という事も大切な事ですからね。たまには若者と仲良くしてみるのも楽しいもんですよ」

とニッコリ笑って言ってから、湯飲みに不思議な香りのするお茶を煎れて差し出しました。

「この漢方薬はね、カチカチに固まった心をリラックスさせてくれる効果があるんですよ。これ飲んで、カッカしたのを治めて食事を楽しんでくださいよ」

トレチャイナが出したお茶をすすったふるちぃは、さっきまで不機嫌だったのがウソのように笑顔になって

「たしかにな。たまには若者の気持ちに寄り添ってみるか」

と言い出しました。

とりころーるちゃんも、シングルちゃんもダブルちゃんも、ちょっとびっくりしましたが、その後みんなで楽しくトレチャイナのおいしいラーメンを楽しみました。

 

 

 

シングルちゃんとダブルちゃん 4話

⭐️<貧乏神がやってきた!>

ここはウォータークローゼットタウンのトイレビレッジ。

トイレの住人たちが楽しく平和に暮らす村です。

トイレットペーパーのシングルちゃんとダブルちゃんはいつも仲良しで、トイレビレッジではちょっとだけ有名なふたり組です。

なぜなら、以前の支配者トレキングが今のリーダーであるカミサマの命を狙っていた時にその命を守るのに一役買ったからです。

そんなシングルちゃんとダブルちゃんが村を歩けば村民たちみんなが声をかけてくれます。

今日も多くの村民とあいさつを交わし、シングルちゃんもダブルちゃんもご機嫌でした。

しかし、なにやら村の一角が騒がしい様子で、それに気づいたふたりが近づいてみると、村民たちが大騒ぎになっていました。

「貧乏神だ!貧乏神がやってきたぞ!!」

「はやく家に入って!開けちゃダメよ!」

「絶対に目を合わせるな!」

村民たちは口々にそう叫んでいます。

「なんだって!?貧乏神がやってきた!?」

シングルちゃんもビックリして、そう叫びました。

「貧乏神って、あの、目が合っただけで不幸になるっていう?」

ダブルちゃんがシングルちゃんにそう聞きました。

「みんなが騒いでるってことは、きっとそういう事だよね」

「私たちも、ここから離れた方が良いかもね・・・」

そしてシングルちゃんとダブルちゃんは、慌てて家に帰りました。

トイレビレッジからはすっかり人気が無くなってしまいました。

貧乏神がやってくる前はみんな外に出てお喋りを楽しんだり挨拶を交わしたりしていたのに、今はただ、なるべく外を出歩かないようにして皆ひっそりと家の中に身を隠していました。

全く外出しないわけにはいかないため、買い物する時や、学校へ行く時、仕事へ行く時は、皆外に出ましたが、寄り道せず、そそくさと目的地に向かうだけでした。

すっかり陰気臭くなってしまったトイレビレッジ。

「これではまるでブラックビレッジのようだ・・・」

トイレビレッジを治めるカミサマは困り果ててしまいました。

「なんとかしなければ・・・」

貧乏神は、ボロボロの服を身に纏った老人のようないでたちで、神出鬼没でいつどこに現れるか分かりません。目が合うと不幸になると言われていますが、その姿を目撃した事があるという村民は数多く、皆貧乏神の姿を見かけると目を合わせる前に一目散に逃げてしまうのです。

「トイレン教授、何か良い案は無いかな」

カミサマは有能なアドバイザーであるトイレン教授に相談しましたが、

「貧乏神を追い出すよりほかないかと・・・」

という結論しか出ませんでした。

そして、いつものようにトイレン教授は叫びました。

「犯人はお前だ!!」

「おいおい、またかね。以前もそう言ってわしの刺客がやってきた事があったが・・・」

そう言ってカミサマはトイレン教授が指さした方を見ました。

すると何という事でしょう。そこにはボロボロの服を着た老人の姿があったのです。

「ぎゃ!貧乏神!!」

カミサマはそう叫び、両目をギュッと固くつぶりました。

「トイレン教授!目を合わせてはいけない!」

そう叫ぶと、トイレン教授も

「はい!しっかり閉じていますぞ!」

と答えました。

カミサマは貧乏神に

「一体なぜトイレビレッジにやって来たのです?住人の皆があなたに怯えている。できれば立ち去っていただきたいのだが・・・」

と言ってみました。

しかし何も返事はありません。

おそるおそるカミサマが目を開けると、もうそこには貧乏神の姿はなくなっていました。

立ち去ってくれたのか、それとも他の場所に移動したのか、分からず、カミサマは頭を抱えました。

シングルちゃんもダブルちゃんも、最近のトイレビレッジの雰囲気にすっかり参ってしまいました。

「前はもっと明るくて楽しい村だったのにね」

「のびのび暮らせる村に戻ると良いんだけどね」

そんな会話をしながら、ふたりは人気のない村を歩いていました。

食料品を買いに行かなければならず、貧乏神に遭遇しないように注意しながら外出していたのです。

「あら」

ダブルちゃんがふいに立ち止まりました。

「あんなところに、おじいさんが・・・」

そして

「どうしたの?おじいさん」

と声をかけました。

「あっ!」

シングルちゃんが気付きました。

「ダメだ!ダブルちゃん!そいつは・・・!!」

しかしシングルちゃんの警告は間に合いませんでした。

老人がくるりと振り返り、ダブルちゃんの方を見たのです。

「あなた・・・まさか・・・」

ダブルちゃんはビックリして口ごもりました。

「貧乏神!?」

老人は

「いかにも」

と答えました。

「目が合ったら不幸になるなどという迷信は嘘じゃよ。信じるでない。正確には、わしが居座った家が不幸ちゅうか貧乏になるちゅうだけの事じゃ。目を合わせて喋ったところで、不幸になることはない」

貧乏神はこう言って

「して、お嬢ちゃん、ちょっとすまんが、何か食べ物を持ってはいないかの?ここ何日も何も食べていなくて腹ペコでな」

と続けました。

ダブルちゃんは困惑しながらも

「今から買い物に行こうと思っていたところだから、今は何も持っていないけれど、買い物に行けば食料は分けてあげられるわ」

と答えました。そして

「ちょっと待ってて、貧乏神さん」

と言って、シングルちゃんを追いかけました。

シングルちゃんに追いついたダブルちゃんは

「貧乏神さんと目を合わせても不幸にはならないんだって!それに貧乏神さん、とってもお腹が空いているらしいわ。いくら貧乏神といったって神様だもの。後で少しだけ食料を分けてあげても良いわよね・・・?」

と言いました。

シングルちゃんはちょっと考えてから、

「うん、食料を分けるかわりに、なぜトイレビレッジに来たのか、どうしてここに居座っているのか、聞いてみるのも良いかもしれないし、あとで食料を届けようか」

と答えました。

そしてふたりは食料を貧乏神に分けてあげたのです。

貧乏神は泣きながら食事にむさぼりつきました。

「ありがとう!ありがとう!!」

何度も何度もお礼を言いました。

「しかし・・・なぜトイレビレッジに来てずっと留まっていたんです?」

シングルちゃんがそう聞くと、貧乏神は

「腹が減って・・・それで誰か食料を分けてくれないかと思ってずっと待っていたんじゃよ。一応神様じゃからな、お供えされたものしか口にできんのじゃ」

と答えました。

「これでまた旅が続けられるようになったわい。お二人さん、本当にありがとうよ」

そう言って貧乏神はどこかへ飛び去ってしまいました。

「なんだ、そんな事だったのか・・・」

シングルちゃんとダブルちゃんは、カミサマに事の顛末を報告しに行きました。

カミサマはとても驚き、そして喜びました。

「またふたりには助けられてしまったな」

そして、トイレビレッジの住人たちに、もう貧乏神はいなくなったという知らせを出して、村には再び活気が戻りました。

 

 

 

シングルちゃんとダブルちゃん

短編小説

⭐️<トリプルちゃん現る!> 5話

ここはトイレの住人たちが楽しく暮らすトイレビレッジです。

ウォータークローゼットタウンの中にあり、トイレビレッジの他には悪者たちが暮らすブラックビレッジ、それから妖精たちが暮らすワンダーフォレストビレッジがあります。

トイレビレッジで暮らしているトイレットペーパーのシングルちゃんとダブルちゃんはとても仲良し。

ダブルロールトイレットペーパーのダブルちゃんは、ちょっとおっちょこちょいな性格で、よく自分のロールに引っかかって転んだりします。シングルロールトイレットペーパーのシングルちゃんは、そんなダブルちゃんをいつも心配しながら助けてあげる心優しいしっかりものです。

ふたりがいつも一緒にいるのも、ふたりがトイレビレッジの危機を何度も救っているのも、トイレビレッジの住人たちの中では有名なことでした。

ふたりはトイレビレッジの中にある学校に通っていたのですが、ある日、先生が転校生を連れて教室にやってきました。

「はじめまして。ぼく、トリプルといいます」

トリプルと名乗った男の子は、とても爽やかでイケメンでした。

転校生だというだけで皆の人気者になりやすいのに、トリプルちゃんはイケメンなだけでなく何でもかんでも良くできるスーパー優等生だったので、たちまち人気者になりました。

特に、特技のトリプルアクセルは女子たちの心を鷲掴みにしました。

もちろんダブルちゃんもそのひとりでした。

いつもシングルちゃんと一緒に家に帰るダブルちゃんは、シングルちゃんに

「トリプルちゃんってすごいよね。本当に完璧!なんでもできて、トリプルアクセルもとてもかっこよかったし、あんな子っているんだねぇ」

と話しかけました。

しかしシングルちゃんはなぜか面白くありません。

その理由はシングルちゃんにもよく分かりませんでした。

不機嫌な様子をダブルちゃんに知られまいとしても、どうしてもぶすっとした表情になってしまうシングルちゃん。

ついには

「でも、なんか気取ってるっていうか、鼻につくっていうか・・・」

と言ってしまいました。

ダブルちゃんはあまり気に留めず

「あらー?もしかしてジェラシーってやつ?そりゃそうよね、男子たちはみんな悔しいんじゃないかな、あんなできる子が入ってきちゃったら・・・」

と言ってクスクス笑いました。

それでシングルちゃんはますます不機嫌になってしまいました。

トリプルちゃんは本当に何でもよくできて、先生にも気に入られました。

学校でも有名人になり、女子たちはこぞってトリプルちゃんに恋の気持ちを打ち明けました。

しかしトリプルちゃんは、女子たちからの告白を断っていました。

なんと、好きな子ができたというのです。

そのお相手は、ダブルちゃんでした。

「僕は、ひと目見た時からダブルちゃんに恋をしたんだ」

トリプルちゃんはそう言いました。

ダブルちゃんはそれを聞いて真っ赤になりました。

トリプルちゃんはみんなの前で

「だからダブルちゃん、僕は君が好きだ!」

と堂々と告白したのです。

驚いたのはシングルちゃんでした。

「へ!?ダブルちゃんに恋をしたって!?なんだってそんな急に!?」

トリプルちゃんが言い出したことが理解できず、パニックになってしまったシングルちゃん。

ダブルちゃんも動転していたようで

「えっと、あの、その、私は・・・」

と口ごもっています。

「返事はいつでも良いよ。僕はずっと待ってるから」

トリプルちゃんはそう言いました。

その日の帰り道も、シングルちゃんとダブルちゃんは一緒だったのですが、いつものようなお喋りはありませんでした。

「あ、あのさ」

シングルちゃんが気まずそうにダブルちゃんに話しかけました。

「トリプルちゃんの事なんだけど・・・」

「ああ!あれ!!あれね!!ビックリよね!!」

ダブルちゃんは大きな声を出して動転を隠しているようでした。

「ダブルちゃんは・・・その・・・トリプルちゃんの事、好き・・・なの?」

シングルちゃんは、答えを聞きたいような、聞きたくないような、そんな気持ちで質問してみました。

ダブルちゃんは意外にもすぐに答えました。

「ううん!好きとかじゃない!全然!!ただビックリしただけ!確かにかっこいいとは思ったし、すごい子だな、とも思ったけど、それは、ただそう思ったってだけで、好きとか、恋とか愛とか、そういうんじゃない!だって私が好きなのは・・・」

そこまで言ってダブルちゃんはハッとした表情になり、真っ赤になって口をつぐみました。

「え?」

シングルちゃんは思わず聞き返しました。

「な!!なんでもない!!!」

ダブルちゃんは、ますます赤くなりました。

シングルちゃんは、なぜかとても安心した気持ちになりました。

ダブルちゃんは、トリプルちゃんの事が好きというわけではないんだ、という事が分かってほっとしたのです。

そしてほっとした自分に気付いて、なんだか変な気持ちになりました。

それに、ダブルちゃんが言いかけた「私が好きなのは・・・」の続きも気になります。

どうしてこんなにダブルちゃんの事が気になるんだろう・・・

シングルちゃんは、今まで感じた事の無いような気持ちになり、ダブルちゃんを意識するようになっていました。

「あ、あのさ・・・」

ダブルちゃんが気まずい沈黙を打ち破るように口を開きました。

「ふたりで、ブラックビレッジに行った時のこと、覚えてる?」

「あ、ああ。覚えてるよ」

「あの時、シングルちゃんがいてくれたから、私は勇気を出してブラックビレッジに行けたし、シングルちゃんがいてくれたから無事帰ってこれたんだよね」

ダブルちゃんはペラペラと喋ります。

なんで今こんな話をしているんだろう・・・

シングルちゃんは不思議に思いました。

「それでね・・・」

ダブルちゃんは何か言いかけて、自分のロールに躓いて派手に転びそうになりました。

とっさにシングルちゃんが手をのばしてダブルちゃんの身体を支えます。

ふたりの顔が近づき目があって、ふたりとも真っ赤になりました。

シングルちゃんの胸はおかしいぐらいにドキドキと鳴っています。

ダブルちゃんも胸をおさえていました。

ふたりは、その日はなんとなく変な雰囲気のまま別れてしまいました。

それからしばらく経って、学校でトリプルちゃんがダブルちゃんに

「そろそろ返事を聞かせてほしい」

と言ったらしく、そしてダブルちゃんがトリプルちゃんに

「気持ちは嬉しいけど、他に好きな人がいるの・・・」

と答えたという事がまことしやかにささやかれるようになりました。

女子たちは「もったいない!」と騒いでいましたが、シングルちゃんはなぜかとても嬉しい気持ちになったし、安心しました。

シングルちゃんとダブルちゃんが互いの気持ちを伝え合うのはまだまだ先のお話です。

でも、トリプルちゃんがやってきた日から、親友だったふたりの間にあった感情が少しずつ変わっていくことになったのです。

 

 

短編小説  妖精の森

⭐️<妖精たちの花園>

ここは妖精たちが暮らす王国。

どんなものにも妖精が宿っていて、自然を守り、人間たちに自然の恵みを届けています。

妖精たちはみんな仲良しで、毎日楽しく過ごしています。

今日は王国のガーデンでパーティーを開催する事になっていて、妖精たちは朝から大忙しです。

特に忙しいのは、花の妖精フィオーレと、葉っぱの妖精リーフィです。

なんといってもガーデンでおこなわれるパーティーですから、ガーデンに咲き誇る花やガーデンを彩る葉に命を吹き込み、パーティーを盛り上げなくてはなりません。

フィオーレもリーフィも、植物に魔法をかける力をもっていて、ひとたび植物に魔法をかければ植物たちは生き生きと踊り出します。

しかし、早くから命を吹き込んでしまうと、みんな興奮してはしゃいでしまうので、パーティーの準備が整ってから、魔法をかける事になっていました。

魔法をかけるまで、リーフィは蔦や観葉植物の葉を綺麗に整えて磨き上げ、フィオーレは花たちに艶を与えて魔法をかけた時に互いにぶつからないように整列させ、そして、ふたりとも少し色あせているような葉や花があれば、化粧直しとして魔法をかけて瑞々しい色を復活させました。

この作業がとても忙しく、ふたりともヘトヘトになってしまいました。

「お、がんばってるね!」

様子を見に来たアクリィがふたりを応援します。

「あ、アクリィ。まだもうちょっと待っててね」

アクリィが魔法の雨を降らせれば、植物たちに命が宿り、そこにフィオーレとリーフィが魔法をかける事になっていたのですが、まだ準備が整っていないため、ふたりはバタバタと準備を進めていました。

アクリィは

「何か手伝える事、ない?」

と聞きましたが、フィオーレもリーフィも

「ありがとう。でも、これは私たちにしかできないから」

と言いました。

アクリィは少し考えてから、

「よし、じゃ、ちょっと待ってて!」

と言って、どこかへ行ってしまいました。

しばらく経ってアクリィはヤミィを連れて戻ってきました。

ヤミィの手には2つのケーキがあり、ヤミィはそのケーキをフィオーレとリーフィに差し出しました。

「これ食べてひと休みして~」

ヤミィがそう言ってくれたので、ふたりはヤミィと、それからヤミィを連れてきてくれたアクリィにお礼を言ってケーキを食べました。

甘いケーキはふたりの疲れた身体にじんわり染み込んで、元気になりました。

「ありがとう!それから、もうちょっと待っててくれたら、アクリィの出番だよ!」

リーフィはそう言って、最後の準備に取り掛かりました。

それから少し経って、フィオーレが満足気に

「これでよしっ!準備できたわよ!」

と言いました。

「いよいよ私の出番ね!」

アクリィはガーデンに雨を降らせました。

そこに、フィオーレとリーフィも魔法をかけます。

すると、植物たちが動き出しました。

ゆっくりと、目覚めるようにのびをしながら、身をよじりました。

花たちはフィオーレが一生懸命準備したおかげで、美しい花びらを身に纏い、自分たちの美しい姿にうっとりするように踊り出しました。花びらはまるでドレスのようにヒラヒラと揺れて、踊り子たちはアクリィが降らせた雨の水滴もアクセサリーのように身に纏って、その水滴が太陽の光を反射してキラキラと輝いていました。

蔦の葉は、華やかな花びらのドレスを身に纏って踊る花たちをうっとり眺めながら、彼女たちを盛り上げようとユラユラと揺れていました。

鳥たちが空で歌い出し、その音楽に合わせて葉と花が躍る様子は、まるでダンスホールのようで、ガーデンが一気に華やかになりました。

その景色は、まるで夢のように幻想的で、もしこのガーデンに誰か人間が迷い込んできたら、きっと夢を見ていると思うに違いないというくらい美しい景色でした。

ヤミィがケーキを沢山もってきて、ガーデンのテーブルに並べると、王国の妖精たちが集まってきました。

いよいよ楽しい妖精のパーティーが始まります。

美しい音楽と、花たちのダンスがその場を盛り上げて、美味しいケーキを食べながら妖精たちはお喋りを楽しみます。

フィオーレとリーフィは、素敵なパーティー会場の様子に満足気でした。

自分たちが頑張って準備したものが、こんな風に妖精の仲間たちを楽しませているという事が、とても嬉しかったのです。

みんな、フィオーレとリーフィに感謝しました。

プレトンから感謝のプレゼントを受け取り、ヤミィからまたケーキをもらい、ふたりは幸せでいっぱいでした。

「今年も素敵な花たちのダンス、楽しませてもらったわ」

フレムに絶賛され、フィオーレは笑顔になりました。

「今年の蔦はつややかで実に美しいね」

マウテンに褒められて、リーフィも思わず笑顔を零しました。

「いつも、フィオーレとリーフィのおかげで、私たちのパーティーは本当に楽しいものになっているね」

妖精たちからそう言ってもらえて、フィオーレもリーフィも、がんばってよかったと心からそう思いました。

パーティーは夜更けまで盛り上がり、みんなよく食べ、よく踊り、よく歌い、楽しいひと時を過ごしました。

フィオーレもリーフィも、この日はくたくたに疲れましたが、その疲れはとても心地よい疲れでした。

いつもよりも早く眠りに落ちたふたりでしたが、この日はぐっすり眠り、楽しいパーティーの続きの夢を見たのでした。

翌日になると、ガーデンの植物たちは、全て元通りに戻っていて、昨日のダンスが幻のように思えました。

この不思議な妖精の国は、今日も自然とともに妖精たちがのびのび暮らして、私たち人間の暮らしにも自然の恵みを届けてくれます。

もしかしたら、今日もどこかで妖精たちが小さなパーティーを開いているかもしれません。

花や葉っぱなどの植物がいつもよりおめかししているように艶っぽく見えたり、晴れているのに突然パラパラと短い間だけ雨が降ったり、何もないはずなのになんだか甘い香りが漂っていたりしたら、それはもしかしたら妖精がパーティーをするために準備している最中なのかもしれませんね。

 

 

短編小説  妖精の森

⭐️<魔法を忘れたフレム> 

ここは妖精の王国です。

どんなものにも妖精が宿っていて、自然を守りながら楽しく暮らしています。

森の妖精、木の妖精、花の妖精、水の妖精、そして火の妖精や、湖や山にも妖精たちは宿っています。

普段は仲良しの妖精たちですが、時々、けんかをする事もあります。

おやおや、どこからか、言い争いの声が聞こえてきますね・・・。

「だから!それは私がちゃんと説明して納得してもらったって言ってるでしょ!」

声を荒げて怒っているのは、炎の妖精、フレムです。

真っ赤な炎をカッカと出しながら怒っている相手は、山の妖精、マウテンでした。

「でも、君があんな事を言ったからプレトンはとても悲しい思いをしたんだろ!」

マウテンも負けじとフレムに言い返します。

一体全体、何が原因でけんかになってしまったのでしょうか。

「プレトンが私にくれようとしたプレゼントはフレイムストーンっていって、とっても貴重なものなの!それを何でもない日にプレゼントしようとしたから、受け取れないって言っただけじゃない!」

フレムは激しい声色でマウテンに食って掛かりました。

マウテンも負けていません。

「プレトンは僕たちにただプレゼントを贈りたかったんだ!その純粋な気持ちを、君は踏みにじったんだ!ひどいよ!」

「だから、それはその後ちゃんと理由を説明して、薪を一束もらって私もプレトンも笑顔になって終わったって言ったでしょ!」

ふたりの口論は激しさを増すだけで、収まる気配を見せません。

ついに、フレムが

「もうっ!いい加減にして!!」

と叫び、ぶんっと大きく腕を振りました。

すると、フレムが振った腕から炎がひとかけら飛び出し、マウテンに当たりました。

「あちっ!」

マウテンはそう叫びました。

ハッとしたフレムがマウテンを見た時は、もう時すでに遅しでした。

マウテンは、山の妖精です。その身体は緑の木々でおおわれています。

もし炎がついてしまったら、あっという間に燃え広がって山火事になってしまうのです。

「ご、ごめんなさい!私、そんなつもりじゃ・・・!誰か!誰かあぁ!!」

フレムは声を枯らして助けを呼びました。

炎の妖精であるフレムはマウテンに手を出す事ができません。もし触れてしまえば、ますます山火事をひどくしてしまうだけです。

「助けて!!マウテンが大変なの!!誰か!!」

フレムの叫びを聞きつけて現れたのは、水の妖精アクリィでした。アクリィは自由自在に雨を降らす事ができます。

「アクリィ!!」

フレムがアクリィの名前を呼ぶと、アクリィはただ無言で頷いて、マウテンの上から土砂降りの雨を降らせました。

しばらくすると山火事は収まって、マウテンは無事助かりました。

フレムは自分がやってしまった事をひどく後悔しました。

「私、なんてことをしてしまったの!マウテン、本当にごめんなさい!」

フレムは涙を流して謝り続けました。

涙といっても、炎の涙なので、フレムが消えてしまう事はありません。

マウテンは、フレムが自分を傷つけようとしたわけではなかった事は分かっていましたから

「もういいよ。僕は大丈夫だったんだから。気にしないで。僕も言い過ぎたよ」

と言ってくれました。

しかし、フレムはマウテンが許してくれても、自分を責め続けました。

そして、いつまでも泣きながらマウテンに謝り続けました。

それからしばらく経って、フレムはいつものように仕事に出かけました。

フレムの仕事は、炎を必要としている人間たちに炎を授ける仕事です。

例えば、人間が火を起こそうとしたら、そこにフレムが魔法をかけてやると、パチパチと勢いよく炎が燃え上がります。

ところが、この日、フレムの仕事はまったく上手くいきませんでした。

どんなに集中しても、炎を出せなくなってしまったのです。

魔法が使えなくなってしまったフレムは、何が原因なのか気付いていました。

大切な友達であるマウテンを傷つけてしまった事をひどく悔やんでいたのです。

自分の力が暴走してしまったせいで、大切な友達の命を危険にさらしてしまった事は、フレムにとってとても辛い事でした。

もう魔法なんて使わない方が良いんだ、私は炎を操るべきではないんだ、フレムはそう思っていました。

人間たちはフレムの魔法が消えてしまい、とても困っているようでした。

「おっかしいな。ちっとも火がつかねえや」

「ガス欠か何かかしら」

ほうぼうで、人間たちの困った声があがりました。

なんとかしなくては・・・

フレムはそう思いましたが、どんなに頑張っても、フレムの力は出ませんでした。

怖い・・・

そう思ってしまったのです。

コントロールできなくなった自分の力がどれほど強暴で凶悪なものか、身をもって知ってしまったフレムは、自分自身が怖くなってしまったのです。

「やぁ、フレム、どうしたんだい?なんだか、とっても辛そうだし、苦しそうだよ」

そんなフレムに声をかけたのは、ケーキの妖精、ヤミィでした。

「あ・・・ヤミィ・・・」

フレムはヤミィに気付きました。

「あのね、人間がケーキを焼きたがっているんだけど、君が魔法をかけてくれないから、ケーキが焼きあがらないんだ。どうしちゃったの?何か病気とか?それとも辛い事でもあった?」

ヤミィにそう聞かれて、フレムは泣き出してしまいました。

そしてフレムは何があったのかヤミィに全て話しました。

「そうか、それは辛かったね。でも、マウテンは君のこと、もう許してくれたんだろ?だったら大丈夫だよ。それに、君の力は僕たちにとっては必要な大切な力なんだ。君がいなければケーキは焼けない。人間たちは料理ができない。温かいお風呂にも入れない。君は、人間にとっては絶対に必要な大切な大切な存在なんだよ」

そして、フレムに困っている人間たちを見せました。

「ほら、彼らが困っているのが見えるかい?みんな、君を必要としている」

「で・・・でも・・・もしまた力が暴走してしまったら・・・?」

フレムがそう言うと

「大丈夫!その時は私がどうにかするわ!!」

アクリィがフレムのもとにやってきました。

マウテンも一緒です。

「君が魔法を忘れてしまったって聞いて、あの時のけんかのせいかな、と思って心配して来てみたんだ」

フレムは気まずそうにマウテンの顔を見ました。

「君が人間たちにとって必要なのは僕もよく分かる。山にキャンプに来た人間たちは、みんなキャンプファイヤーを楽しむんだ。炎を囲んで、歌ったり踊ったり語り合ったりするんだよ。そうして人間たちは忘れられない思い出を作って、仲良くなっていくんだ。それにキャンプするには料理しないといけないけど、その時もフレム、君の出番だもんな。君を必要としている人が沢山いるんだ。君は、その人たちにとって無くてはならない存在なんだ」

マウテンはフレムにそう言って、それからちょっと気まずそうに

「この前のことなら、僕も謝るよ。言い過ぎた、ごめん。君はとても友達想いの良い子なんだよね。プレトンに気を遣わせないために、貴重なものは何でもない日には受け取れないと言ったんだね。プレトンから聞いたよ。僕が色々勘違いしてたのかも。ごめん。さぁ、これはこの前プレトンが君にあげた、よく燃える最高の薪だよ。これでもう大丈夫だろ?」

と言って、フレムに薪を渡しました。

フレムはコクンと頷いて、渾身の力を込めて魔法を繰り出しました。

すると、人間たちの世界の火が次々に灯っていきました。

人間たちはほっとしたような表情になり、喜んでくれました。

フレムもほっと一安心しました。

そして、フレムを応援してくれた仲間たちの方を向いて

「ありがとう」

と言いました。

こうして、フレムは無事炎の魔法を思い出し、笑顔も取り戻したのです。

 

 

短編小説 妖精の森

⭐️<プレトンのプレゼント大作戦>

妖精王国の住人、プレトンはプレゼントの妖精です。

「プレゼントはみんなを笑顔にするんだよ。だからぼくはみんなにステキなプレゼントを贈るんだよ」

プレトンは自分の役目や仕事の話をする時に、こんな風に話していました。

でも、誰かから

「どんな時にプレゼントをするの?」

と聞かれた時に、

「お誕生日とか、クリスマスとか、あとは・・・」

と答えていたら

「ふ~ん・・・あんまりプレゼントってしないのね。それじゃあ特別な日にだけ笑顔にする仕事ってこと?」

と言われてしまい、ショックを受けてしまったのです。

「特別な日だけじゃなくても、プレゼントって嬉しいはず。うん、絶対そうだ!ぼくは、特別な日じゃなくても、プレゼントしてみんなを笑顔にするんだ!!」

プレトンはそう思い立ちました。

そして、妖精の仲間たちにプレゼントを配る大作戦を計画しました。

いつも自然を守り、そして人間たちにも恵みを与えている妖精たちに、素敵なプレゼントを贈り、笑顔になってもらおうという作戦でした。

まずプレトンは、大きな山の妖精、マウテンのところへ行きました。

「やぁ、マウテン、こんにちは!」

「やぁ、プレトンじゃないか」

「あのね、今日はぼくからマウテンにとっておきのプレゼントがあるんだよ!」

そう言うと、プレトンはマウテンに魔法をかけました。

すると、マウテンの身体に色とりどりの花が咲きました。

「わぁ!キレイ!ありがとう!でも、どうして急に?春でもないのに・・・」

マウテンは喜びましたが、少し戸惑っているようでもありました。

「あのね、別に特別な日にプレゼントしなくても良いんじゃないかって思ったの。マウテンはいつも山の緑を守ってくれているから、それでプレゼントしようと思ったんだ」

プレトンがそう答えると、マウテンはニッコリ笑って

「嬉しいよ。ありがとう」

と言ってくれました。

次にプレトンが向かったのは、雪の妖精スノウィでした。

「ねぇ、スノウィ、ちょっと良いかな?」

「あら、プレトン、こんにちは。どうしたの?」

「ぼくからのプレゼント、受け取ってくれる?」

そう言ってプレトンは、スノウィに素敵な氷の結晶でできたペンダントをプレゼントしました。

「まぁステキ!!でも、これ、どうしたの?」

そう聞くスノウィに

「プレゼントさ。君はいつも冬に美しい雪を降らせてくれるから、そのお礼だよ!」

とプレトンは言って、スノウィのお礼を聞きながら立ち去りました。

次に、プレトンは花の妖精フィオーレと、葉っぱの妖精リーフィのところへ行きました。

「やぁ、フィオーレ、リーフィ、元気かい?」

「プレトン!ハァーイ!元気よ!ありがとう!」

フィオーレはとても美しい笑顔でそう答えました。

「やっほー、プレトン!今日はどうしたんだい?」

リーフィはくったくなく挨拶を返してきました。

「うん、今日はね、君たちにプレゼントがあるんだ」

そう言って、プレトンは、フィオーレには美味しい花の蜜で作ったジャムを、リーフィには虫食い予防の特別なクリームを、プレゼントしました。

ふたりとも突然のプレゼントに驚きましたが、とても喜びました。

最後にプレトンが訪れたのは、炎の妖精フレムのところでした。

「フレム、こんにちは。あのね、突然なんだけど、ぼく、君にプレゼントをもってきたんだ」

プレトンがフレムに話しかけると、フレムはくるっと振り返って

「まぁ、誕生日でも記念日でもないのに、プレゼント?どういう風の吹き回し?」

と尋ねました。

「プレゼントって、別に特別な日にしなくちゃいけないなんて決まりはないでしょ?だから、ぼく、大好きな友達にプレゼントしようって決めたんだ!」

プレトンはそう答えて、フレムにキラキラ輝く石を手渡しました。

「これ・・・!」

フレムはビックリしました。

「こんな貴重なもの、こんな何でもない日に貰うわけにはいかないわ」

フレムは困ったように石をプレトンに返そうとしました。

プレトンがフレムに渡した石は、炎をより一層美しく輝かせる効果があるフレイムストーンという伝説の石だったのです。

実はプレトンは、この石をフレムの誕生日のために用意していたのですが、この日にみんなにプレゼントを配ろうと決めて、フレムの分だけどうしても「ちょっとしたプレゼント」が見つからず、この石を贈る事にしたのです。

誕生日には、また何か探せば良いや、と思い、プレトンはフレイムストーンを渡したのですが・・・

「いいから、受け取ってよ!せっかく用意したんだもの」

というプレトンの言葉を聞いても、フレムは譲りません。

「じゃあ、せめて私の誕生日か、何か特別な日にちょうだい。今日は持って帰って!」

そう言ってフレイムストーンをプレトンにおしつけます。

プレトンはすっかり傷ついて、フレムに聞きました。

「ぼくのプレゼント、気に入らなかった?怒ったの?フレム・・・」

悲しくなったプレトンは、気付けば涙をポロポロと流していました。

そんなプレトンを見て、フレムは慌ててこう言いました。

「違うの!嬉しいのよ、とっても!でもね、こんな高価で貴重なものを、何でもない時にもらうっていうのは、なんだかとっても変な気分で、悪いなぁと思ったり、何か私にお願いごとでもあるのかなぁと思ったり・・・」

「そんな事ないよ!ぼくは、ただ・・・」

プレトンは口を挟みましたが、すぐにフレムが遮りました。

「分かってる!別に私に何か頼みごとがあるわけじゃなくて、プレトンは、ただプレゼントを贈りたかっただけなんだよね。でも、とにかく、こんなに良いものをもらうっていうのは、何でもない時にはとても変なかんじがするの。それに、こんなプレゼントをもらっちゃったら、何かお返しをしなくちゃ、とか、色々考えちゃうでしょ?だから、これは私の誕生日とか、特別な日までとっておいてほしいの。でも、気持ちはとっても嬉しかった。ありがとう。その気持ちだけで十分だよ」

フレムはニッコリと笑いかけました。

プレトンは、あまり納得がいっていないようでした。

「うーん・・・そういうもんなのかなぁ・・・でも、みんな喜んでくれたよ」

「みんなには何をプレゼントしたの?」

「マウテンには花を咲かせるプレゼント、スノウィには結晶のペンダント、それから、えぇと、フィオーレには花のジャム、リーフィには虫よけクリーム・・・」

「ほら、みんなにあげてるのは、なんていうか、ちょっとしたプレゼントじゃない?私にくれたフレイムストーンはとても貴重なものだから、何でもない日には受け取れないわ。そうね・・・じゃあ私にも何かちょっとしたものをちょうだい。例えば、よく燃えそうな薪とか!」

フレムの提案で、プレトンはよく燃える薪を一束プレゼントしなおしました。

「ありがとう!!これなら素直に受け取れるわ!!」

フレムはやっと喜んでプレトンのプレゼントを受け取ってくれました。

プレトンは、今回のプレゼント大作戦でなんだか沢山の事を学んだような気がしました。

プレゼントをすればみんな喜んでくれるけれど、大きなプレゼントをする時は、やっぱり特別な日が良いという事、ちょっとしたプレゼントなら、何でもない日に贈ってもみんな笑顔で喜んでくれるという事、そして、みんなが笑顔になると、自分もとても幸せな気分になれるという事・・・。

「色々あったけど、プレゼント大作戦は、大成功ってところかな」

プレトンはその日、とても満足な気分で眠りにつきました。

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